紅茶のいれ方 

 朝起きて、紅茶をいれる余裕があるとうれしい。いちにちのはじまりが、まるでちがってくるから。

 まず、やかんに水をいれて火にかける。沸騰するまで数分、その間ステンレス台を拭き清め、ポットと片口、カップを用意し、それでもまだ時間が余っていたらシンクの中の洗い物をする。できるだけ、周囲をすっきりとさせて、気持ちよく紅茶が入れられるように。

 湯が沸騰したら、ポットに入れてしっかりとあたためてから片口に注ぐ。冬だったらたっぷり入れるけれど、夏はポットの半分くらいで十分温まる。

 紅茶はその時の気分で選ぶが、この頃はインドから持ち帰ってきたニルギリとダージリンを混ぜる。だいたい、ニルギリ4gにダージリン2g。対して湯量は400ccほど。茶葉がなるべく踊るように 高い位置から 注ぎ、蓋をして3分待つ。

  片口からカップに湯を移動してから、ポットを持ち上げ、空中で右回りに1回転半させるようにしてから蓋をとり、香りを確認する。毎日同じようにしていても、自分の体調で感じ方が変わるような気がする。茶葉を変えた時は、当然のことながら香りもがらりと変化し、そうとわかっていてもはっとする。そんなこともたのしみのひとつ。

 片口に注いで濃さを均等にしてから、大きな方のカップにたっぷりと注いで牛乳を入れる。これは私用。小さなカップにも注ぎ、牛乳を入れずに片口とともにお盆にのせて、夫に持ってゆく。と書くとなんだかかいがいしい妻のように聞こえるかもわからないが、「おすそ分け」みたいなものだ。もちろん立場が逆になることも。

 やかんに水を入れるところから、飲み始めるまでおそらく10分ほどだろうか。毎朝のこの10分の繰り返しが、自分の一部をたしかにしてくれるように思う。ささやかで、大切な10分。

 「習慣として紅茶を入れることのすばらしさ」を伝えてくれたのは友人だった。彼女のいれた紅茶を飲みたい、と思う。じつのところ、今年に入ってもうずっとそう思い続けている。細い手首に支えられたポットから紅茶が注がれる風景。まっさらな白いソーサーとカップ。カップが空になると、流れるような自然さで、ふたたび一からの手順を踏んであたらしい一杯が用意される。 山を越えて飲みに行きたい、ともう一度思う。

片口 村木雄児
ゆのみ 小野哲平
アルミ皿 坂野友紀