2020/3/24
デリーで一日過ごした翌日は、長距離列車での移動。ヒマラヤのふもと、自然保護地区のパワルガル国立公園へ。
朝4時半に目覚ましをかけて(でもならなかった) 、ホテルにもモーニングコールをお願いして(なぜか3時にかかってきた)、 それでも奇跡的に目覚めて、5時に予約したタクシーに乗って、いざニューデリー駅へ。
駅のまわりはすでにカオス、改札付近には頭まですっぽり布に包まれて寝る人多数。構内に入るにはチェックがあるのか、ホームレスの人や物乞いの人は見当たらない。上にかぶせてある布の質感や荷物から見て家がなくてここで寝ているようには見えない。ならば、この人たちはどうしてここで寝ているの?電車の到着待ち?と横目で眺めながらも、先を急ぐ。
改札口で、プリントアウトした乗車券を見せても首を振られ「あっち!」と指をさされる。えー?去年はここから入ったのに…と困惑する私たちを「チッ」と舌打ちしながら「こっち!」と手招する係のひと。連れていかれた窓口では「同乗者はどこにいるのか?」とかものものしく質問されたりして、訳がわからず不安になる。はたして電車には乗れるのだろうか….
結局なにが問題だったのかわからぬままホームに降り立つことができて、ひと安心。ああ、これだからインドは疲れる…とため息をつきながらも気を取り直して、プラットフォーム内を歩きながら見学。売店ではコーヒーやチャイ、カップヌードル的なもの?が売られていて、買ってみたいという強い衝動が湧いてきたけれど、どう考えてもおいしくなさそうなので、我慢する。
ホームには輪になっているご婦人方も。こんな早朝に、地べたにすわって…と近づいてみると、なんとも和やかに談笑している。よく見ると身なりもこざっぱりとしたみなさん、とっても楽しそう。「写真をとってもいいですか?」と声をかけると、「もちろん!」とみなさんにっこり。みなさん、どこに、なにをしにゆくのだろう?
無事指定された列車の乗り込み一安心。発車10分前にはインド人スタッフの二人も到着。今回のインド行きの大きなミッションのひとつは、夫が手伝っているインドNGOのゴミプロジェクトの視察。インドのスタッフとも一年ぶりの再会。なにからなにまで試行錯誤、緊張感あふれる旅も一旦小休止、今日からは交渉事やハプニング、コミュニケーションなどは彼女たちにすっかりお任せしたリラックスした2日間となる予定。
まだ暗い早朝に列車は出発、ほどなくしてチャイが配られる。やっぱりインドはチャイなしには一日がはじまらないのだろうか、お盆の上にはお湯の入ったポットとカップそれからティーバックと、ミルク(クリープみたいなの)、砂糖がたっぷり二袋。それらをすべてカップに入れて、お湯を注いでぐるぐるかき混ぜる。わたしは砂糖をほんの少し入れてつくる。正直おいしいとは思えないけれど、みんなが神妙な顔でまっすぐ前を向いてチャイを飲んでいる光景にはなにかしらおもしろいものがあるし、朝から続いた緊張をあたたかいチャイがゆるめてくれたのも確か。これから列車で6時間の旅がはじまる。
今回乗った長距離列車は、チャイも出るし、紙パックのジュースやペットボトルの水、朝食も配られるしシートは清潔、値段もそこそこして、乗っているのはホワイトカラーの人ばかり。つまりは恵まれた列車の旅、ということになる。
しかし、ひとつだけわたしの心を重くしていたものがある。それは列車内のトイレ!インド式トイレには楽々とまではいかないが、まずまず慣れてはいるし(紙ではなくて桶を使って水で洗う)、見た目もすごく不潔ということではないのだけれど、息を止めていないと卒倒しそうなほどの匂いには閉口する。とはいえ6時間もトイレに行かずにいることは難しい。途中で一度、意を決して息を止めて使用。座席に戻り、匂いの記憶が早くうすれますように、と身体をかたく縮めながら本を読む。
日本のスピードの早い列車とくらべて、ゆっくり走る列車なので、景色を眺めながらのんびりとした気分になったり、本を読んだり、書きかけの手紙を取り出してみたり。去年見た景色がなつかしく窓の外を通り過ぎる。くもった窓ガラスを通して、夜明けの光が差し込んでくる。木々や湿原は白い光にまぶしくうつり、そしてうつくしい風景の倍以上の頻度で目にするバラック小屋の貧しい生活と地表を覆うちらばり放題のごみの強烈なコントラスト。「いったいどうしたらいいのだろう」と答えのない問を頭のなかでどうしようもなく繰り返す。ホテルで目覚めてからもうずいぶん時間が経っているので、すでにずいぶん疲れている。
そうこうしているうちに、パワルガル駅に到着。日本はまだ寒さが残るのに、初夏のような陽射し。むらがるタクシーの客引きを掻き分けるようにして、インド人スタッフについてゆき、迎えの車に乗り込む。
町を抜け、林や森を抜ける。一年前に一度来ただけなのに、見慣れた風景と感じる不思議。ゴトゴトと車に揺られながら、ときにうとうとしつつ、乾いた空気にを感じながら1時間半、去年も泊まったホテルに到着。ようやっとついた、と深いため息をつく。時刻は2時。ホテルを出てから、9時間が経っていた。
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