朝のお味噌汁

 8月の終わり、朝起きたらひんやりと涼しく、夏用の薄い上掛け一枚では足りないと感じた。秋の気配は朝晩のつめたい空気に乗ってくる。

 夏の間、お味噌汁とは縁遠くなり、かわりに野菜や薬味を細かに刻んで味噌と炒め合わせる「香りみそ」をせっせと作る。それが、一晩明けて突然「今日からお味噌汁」になるのは不思議でもある。

 鰹節で簡単に出汁をとり、手近にあった玉ねぎをうすぎりにして投入する。玉ねぎがすっかり煮えたら火を消して、味噌を溶いて、あつあつをお椀に注ぐ。夜の間に思った以上に冷えてしまった体に浸み込んでゆくお味噌汁。なんと生命に満ちたひと椀だろう、と思う。

 出汁は煮干しか昆布+鰹節。煮干しは香川の山國さんのものを使っている。生臭みがなくすっきりとしてコクがあり、煮干しとは思えない洗練された出汁がとれる。1キロほどまとめて手に入れ、冷凍庫で保存する(わが家の冷凍庫はいつも煮干しと納豆でぎゅうぎゅう)。

 煮干しは前夜にえらと内蔵をとり、1人当たり3本くらいを水に浸しておく。翌朝火にかけ、中弱火で沸騰したら火を消し、しばらくそのまま放置。急いでいるならすぐに使ってもいい。

 昆布+鰹節の場合は、前夜に昆布を水にひたしておく。翌日の朝弱火にかけ、沸騰直前に昆布を取り出し、鰹節の厚削りを入れて、弱火で10分ほど煮る。火を消して、冷めるまで待つ(こちらも急いでいればすぐに使える)高知産の厚削りはすっきりとした濃い出汁がとれるので気に入っている。

 取り出した昆布は8ミリほどの正方形に切り、小さな琺瑯容器に入れ、かぶるほどの水を入れて醤油を加えて火にかける。水分がなくなったら、昆布の佃煮の出来上がり。お結びにも具にもよいし、お弁当のすみにいれても重宝する。

 お味噌汁は簡単そうに見えて、実際簡単でもあるのだが、それでもやはりそれなりの手間がかかるので(そしてその価値は十分にある)、朝ごはんは、ご飯+お味噌汁、それからぬか漬けや梅干し、らっきょうなどを添える程度に落ち着いた。ときどき卵を焼くと食卓から歓声が上がる。

 具は手近にあるものを使う。わかめ+豆腐+ねぎは王道。今の季節だったら、おくらをごくうすく切ったものをたっぷり入れるのもいい。食べ応えを求めるなら、断然玉ねぎ+溶き卵。吸い口は今の季節だったら茗荷。もうすこししたら紫蘇の穂や青柚子の皮。徳島のひとは、すだちをお味噌汁に絞るとも聞いた。

 こどもが風邪をひくと、毎回「ねぎのたくさん入ったおみそしるがのみたい」と言う。なるほど、と思い、ご飯時に限らず作ってあげると2杯でも3杯でも立て続けに飲む。体があたたまるし、水分補給という意味でも理にかなっている。それから梅干しを5つも6つも食べる。ちょっと塩気が多すぎやしないかとも思うが、これが何日も続くわけでもないし、こんなときこそ体の求めるままに、とするがままにさせておく。

  わたしは朝食はほとんど食べないが、お味噌汁だけは別。作りたてならなおさら。今朝はお揚げと葱、それからこまかに刻んだみょうが。夏から秋へとうつろうひと椀である。