みょうが

 7月のはじめ、夏の香りを放つみょうがをたくさんいただいた。

「わあ、もうみょうがが採れるんですね、わたしの畑は8月の終わりごろにならないと出てこなくて」と言うと、「みょうがは夏みょうがと秋みょうがと2回採れる」とおっしゃる。「え、そうなんですか!」とあわてて畑に行って探してみるが、それらしきものは見当たらない。「やっぱりありませんでした」「そう、じゃあ様子見だね」と電話で話したのがたしか3週間ほど前だっただろうか。

 1週間ほどして見にってもまだない。やっぱり8月の末まで出てこないんだ、とすっかりあきらめていた。ところがある日のこと、ふと魔が差してみょうがの茂みをかきわけ、湿った土に手を這わせると、あった!

 ちょっと時期がおそかったのか花が咲いているものもあったが、十分に使えそう。7月にみょうがを採ったのははじめてのこと。わざわざ探さないと見つからないので(毒蛇がいるかもしれない。そして蚊の襲撃は確実)、教えていただかなければきっとこの先ずっと採り逃しつづけていたにちがいない。

 みょうがは夏の薬味として活躍するが、たくさんあるときやすぐに使わないときは保存食にした方が使い勝手がいい。これまでは梅酢で漬けていたが、今年はらっきょうの甘酢が再利用できると知ったので、試してみることにした。

 みょうがはよく洗って、半分に切って断面に土が入っていないかよくよく確認する(食べた時にじゃりっとするのは興ざめ)。花が咲いたものは中が茶色くなっていることもあるので、取り除く。水をよく切って、盆ざるに並べて上から熱湯を回しかける。このひと手間で湿気のある場所に育ったみょうがのわずかな湿っぽい感じが解消され、歯ごたえよく清潔感のある仕上がりになる。

 切り方は、繊維に添っての薄切りか小口切り、あるいはそのままでも。ボウルに入れ、梅酢をまわしかけ、70%くらいの力で絞る。ふたたびボウルにもどし、梅酢を加えて今度は90%ほどの力で絞る。あまり強く絞らないほうが、雰囲気よく仕上がる。

最後にらっきょう漬けの瓶から甘酢を取り出して加えてみょうがとあわせ、瓶に詰める。瓶は煮沸消毒がベストだが、この蒸し暑い時期、火を使う時間は極力短く。なので、瓶に梅酢を少し入れ、蓋をして振ることで殺菌に代え、その梅酢はみょうがの下処理に使うと合理的。

 梅酢できっちり下処理をして、らっきょうの風味の甘酢で仕上げた「みょうがの甘酢漬け」。保存は冷蔵庫で2週間ほどだろうか。保存食とはいえども、なるべく早く食べたほうがみょうがの香りと勢いを楽しめる。長期保存を目指すなら、梅酢だけで漬けるのも一案。

 できあがったものは、豆腐にのせてもいいし、おじゃこと白ごまとご飯に混ぜ込んだり、薄切り肉をさっと焼いたもの、蒸し鶏、南蛮漬けを作るときにも重宝する。先日は揚げ餃子の上にたっぷりとのせて酢醤油をかけたらさっぱりとしたうれしい夏の一皿になった。

 みょうがはその形も、色も、香りも、不思議に特別な感じがする。ちょっと辛みがあって、清々しい香りがして、常にほかの食材を引き立てる役回り。

  葉は、青々と気持ちよく伸びるので、植わっている場所の雰囲気はすがすがしく、土からほんのすこしのぞいたみょうがのうすい海老茶のグラデーションは、日陰のひんやりとした空気の中にあって、神秘的ですらある。

 この茗荷は、たしか数年前に根をもらって植えたのだった。太くはないが、手にするとしたたかな生命力があり、これでは移植の失敗のしようがない、と感じた。植える場所は半日陰の湿り気のある場所で、と思い込んでいたけれど、意外と日当たりのよい場所でも藁を敷いて乾燥しないようにすればよいらしい。

 春には「みょうがだけ」といって新芽の下の白い部分がみょうがと同じように使える。葉はお風呂に入れるのもよいらしい。調べてみたら、みょうがの葉で包んだ蒸し饅頭も郷土菓子として存在するとか。

 こんなふうに、みょうがの世界はどんどん広がってゆく。8月の末にもう一度収穫のチャンスが巡ってくる。そして、来年は花が咲く前、7月10日ごろにみょうがを探すことにしよう。