なす味噌のおむすび

  夏野菜や香味野菜をこまかに刻んでよくいため、多めの味噌で仕上げたものは、夏になると繰り返し作る料理のひとつ。「夏みそ」や「香り味噌」と呼んでいるが、今回あえて「なす味噌」と呼ぶ理由は、単に材料がほとんどなすだけだから。もちろん、十分においしくできる。

  毎年繰り返しつくっているのに、1年経つとそのことをすっかり忘れてしまう。手近にある季節の素材で、なんとかこの日を食べつなぐものを、と思って手を動かしているうちに「ああ、これは去年何度もつくったあれだ」と思い出す。その驚きはいつでも新鮮で、とりわけ夏はその醍醐味を感じるので、忘れっぽいのも悪くないのかもしれない、と思う。

  なすは地域の神社のお供え物。おまつりの日のお供え物は決まっていて、お米、のり、おもち、赤魚、塩、それから野菜に果物とお菓子。儀式が終わると(今回はちいさな神さまだったのでお参りだけ)、お供えものを参加者で分けていただく。

  わたしは神社が好きなので、どうにもお供え物が有難い気がしてならない。普段ほとんど口にしない市販のお菓子も、お茶を入れ、漆の4寸皿にのせて食べるとおいしく感じられるのは気のせいか。地域にはご年配の方が多いので、お菓子は昭和を感じさせるラインナップが多く、年に幾度かなつかしき「ブルボン」の味をたのしむ(今回は「ルマンド」)。

  さて、このなすをいかにして料理するか。数日のあいだ籠にいれて時折眺めていたが、よい考えが浮かばず、そのうちなんとなくなすの生気がなくなってきた。こうなったらもうシンプルにさっと、素材の味を生かす使い方はできない。しかし、このありがたきなすを最大限のパフォーマンスで家族のお腹におさめるという野望を捨てきれず、そこでおもいついたのが「なす味噌」だった。香り野菜は使いかけのひとかけらのにんにくと、よい香りのみょうががある。

 なすは5ミリ程度の賽の目に切り、あくがあるのでさっと水を通す。フライパンに多めのごま油を入れ、みじん切りにしたにんにくを加える。つんとした香りがぬけて色づいてきたら茄子をいれてすばやく全体に油をまとわせる。水分を抜くようにしてしっかりと炒め(油が足りないと感じたら足す)、最後にみょうがのみじん切りを加え、ふたたび火をいれてから、日本酒をひとまわし。水分があらかた飛んだら全体量の3分の1ほどの味噌を加えて混ぜながら数分火を通す。日本酒のかわりにみりんでもよいし、甘みがほしければ最後に砂糖を加える。一般に作られる「なすのみそ炒め」とは異なり、味噌の分量がかなり多く、いわゆる「おかず味噌」の部類に入る。

  できたてはやはり断然おいしい。炊き立てのご飯の上にのせて、海苔で巻いてたべるのが一番。さらにおすすめなのがおむすび。コツはなす味噌をたっぷり入れること。でき上がったなす味噌は、冷めたら容器にぴっちりと詰めて(できるだけ空気に触れないように)2日ほどで食べ切る。

 なす味噌が仕上がったとたんに、「そうだ、明日の朝はなす味噌のおむすびにしよう」と思いつき、そういえば去年もそんな風におもったことを思い出す。ごはんは6合(朝と昼の分)。おむすびの形は丸く。梅酢と塩を手につけながらえんえんとむすぶ。大きな木の器にのせて、田舎きゅうりとみょうがのぬか漬けを添える。熱いおむすびと器の接面が蒸れてしまいそうなので、畑からターメリックの葉を採ってきて敷いたら、目にもすずしい光景が、夏を一層際立たせた。

 海苔はしっとりしてしまうのを避けるために、食べるときに各自で巻く。かなり地味なこの朝食を、こどもたちが思いのほか喜んで3つも4つも食べ、学校から帰ってきてからも、翌朝も「なすみそなすみそ」とせがんだのは意外だった。

 おむびはできたてからほんのすこしおいたくらいがおいしい。そして昼ご飯におむすび弁当があるのは、あらためての準備をしなくていいのがうれしい。夏から秋にかけて茄子はたくさん採れるのでいただく機会も増えてくる。わたしの畑の茄子はひょろひょろとしているが、紫の星型の花が咲き始めている。なす味噌を、この夏たびたび作ろうと思う。