玉ねぎの卵とじ丼

 平日の昼ご飯は、朝炊いたご飯に保存食、というごく簡単なものにしているが、ときどき火を使った料理がしたくなる。食材の買い置きがほとんどない我が家(そして買い物にもあまり行かない)、まず「何があるか」と探すところからはじまる。

 この日はいつも以上に食材がなく、ならばと大切にとっておいた今年収穫した玉ねぎを使うことにした。今回の作付けは50本、前回の400本から随分減ってしまった。それでもゼロよりはずっといい。あきらめないことが大事。

 卵だけはちょうどたくさんあった。ここのところ、近所のオーガニック農家さんの卵を定期的に買わせていただいている。50個お願いして、大事につかって、すべてなくなったら少し時間をおいて、またご連絡する。途中卵なしの期間を1週間ほどはさむことで、卵の貴重さが感じられる、という仕組み。

 我が家がごみを出さないようにしているのを知ってくださっていて、空き箱におがくずをいれた中に卵が入っていた(ご家族に大工さんがおられる)。これはいいアイデア!と箱が空になったら、その箱をお返しして、またそれに入れていただくシステムに自然となった。卵のプラスチックパックは、何とか減らせないかと悩みの種だったので、とてもうれしい。

 さて、玉ねぎと卵。そして冷蔵庫には、数日前にたくさんつくった麺つゆ。ならば、作れるものは玉ねぎと卵の丼だな、と思う。

 鍋に油をしいて、薄切りにした玉ねぎを炒める。焦げないように、時間をかけて、途中で塩と酒を少し加えて、さらに炒める。玉ねぎのようすをうかがいながら、しんなりを通り越して、甘みが出てきた感じになったら水をすこし入れてふたをして蒸し煮にする。水分をもどしながら甘みを引き出してゆくイメージ。

 お鍋を気にしながら、すばやくぬか床から生姜を出して千切りに、ちょうどよく漬かったきゅうりも取り出して切っておく。ぬか漬けはすこしでも冷たい方がおいしく感じるので、みつろうラップをかけて冷蔵庫へ。

 麺つゆを加え、沸騰したらまたちょっとふたをして、玉ねぎによく味がしみて、ふたをはずして、水分量がちょうどよくなるまで煮る。最後に、塩をすこしいれたとき卵を回し入れ、ふたをして弱火にする。卵にどこまで火を入れるかは好みで。わたしは9割がた火を入れる。

 丼にご飯をよそい、上に具をざっとのせる。きれいな盛りつけにはあこがれるが、盛りつけに気を取られすぎると勢いがそがれるので、見た目は気にせずスピーディーに。上にせんぎり生姜をたっぷりとのせてできあがり。生姜のあるなしでは、天と地ほど味が違うので、おっくうがらずに用意しよう、と改めて思う。今年は新生姜で紅しょうがをつくろう、とも。

 最初から最後まで同じ味のものが好きなので、、わたしにとって丼はやすらぎの料理。変化は薬味でつける。玉ねぎの甘みと、だしの深みと、卵がすべてをやわらかく包む感じ。シンプルなだけに、ある意味理想的なお昼ご飯。後になって、最後の段階でちぎった海苔をのせればよかった、と思う。

 少ない材料でつくる料理は、そのプロセスに集中できるから、もしかしたら瞑想に似ているのかもしれない。地味だけれど、作っている間も、食べているときも、心がやすらぐ感じがするのだ。そんなご飯を日々作り続けていきたいと思う。