金柑しごと

 お正月がおわり、ようやく日常に戻ってきたと感じる1月中旬ごろが金柑の季節のはじまりです。直売で目にしたり、ご近所の庭や畑のすみで、低い木にすずなりになった小粒の金柑が、つめたい空気のなかで、だんだんに実りを極めてゆきます。初物として、わずかみどりがかったものを一粒かじると、じつに野趣あふれる風味。その後3週間くらいかけて、金柑は完熟へと向かいます。

 わが家には金柑の木がないので、普段からなにかと気にかけてくださる方に、「もううちは採ったから残りは全部どうぞ」と声をかけていただいたり、おすそ分けいただいたり、とありがたいこご縁にまかせて、いただいた時がタイミング。日常のあれこれをすべて終えてから作業しようなどと思っていると、いつまで経っても着手できないのと、手順はシンプルでもなかなかの集中力を要するのが季節の仕事の常。金柑しごとの優先順位をぐっと引き上げて、虎視眈々と加工のタイミングを狙います。

 まずは数粒かじってそのワイルドな風味をたのしみ、それから薄切りにして高知の誇る文旦とはちみつマリネにしたり、サラダに入れたりします。

 サラダは香りがよく心地よい苦みのあるクレソンが好相性。作り方はごくシンプルですが、躍動感のある仕上がりにするには、いくつかポイントがあります。すなわち、水切り、ドレッシング、そしていちばん最後に金柑を入れること。

  クレソン(リーフレタスと混ぜても)はしばらく水に放ってから、しっかりと水を切ります。わが家はサラダスピナーを使用、なければざるで水切りしてから布巾に包みます。ピンとしていない場合は容器にいれて冷蔵庫で冷やしておきます。

  ボウルに入れて、オリーブオイルを回しかけ、ボウルをゆするようにして全体をオイルがコーティングするようにします。ビネガーを加え(酢やレモン汁でも)、塩を振り、同様にしてボウルをゆするようにしてなじませて味を見ます。最後に種を取った金柑の薄切りを加えます。金柑を最後にいれることで、サラダとの境界をはっきりとさせて、味と香りを際立たせます。一緒の場所にいるけれど、それぞれが自分の足でしっかりと立っているイメージです。

 そのまま齧る、マリネ、サラダ、とせっせと使っても、たくさんの金柑はそうそう減ってはゆきません。そこで保存食の出番です。ジャムもよいのですが、糖度がわりに高くなるのと、ジャム作りは夫の担当。わたしは作るのも、食べるのももう一歩。そんなわけで、今いちばん気に入っているのが金柑の焼酎煮です。

 さあこれから作ろうとなったら、まず家中の小瓶をかきあつめて、煮沸消毒して乾かしておきます。煮沸消毒後の瓶のすがすがしさ、まっさらな様子はひとつのうつくしい風景。清めの儀式のような雰囲気もあいまって、身がひきしまります。

 金柑の下処理は、ヘタを取り、半分に切ってから種を出します(細いフォークが便利)。この作業は細かくてやや手間ですが、シンプルと言えばシンプル。ざっとした作業なのでやり始めてしまえばテンポよくすすみます。

 金柑は酸があるので、土鍋かホーロー鍋、どちらもなければステンレス鍋を使います。土鍋は火のあたりが柔らかいので焦げにくく、かつ保温性もあるので、作っている途中も自然にのんびりとした気分になり、そのせいか安定感のある仕上がりになるように思います。

 作り方:鍋に金柑を入れ、たっぷりかぶるくらいに焼酎を注ぎます。焼酎はよいものに越したことはないですが、長時間火入れをするのと金柑の個性が強いので、それほどこだわらなくてもおいしくできます。

 中火にかけて、沸騰したら弱火で15分程度煮てから火を消して放置します。冷めたらまた火にかけて、今度は弱火で5分ほど。火を消して、冷まして、火を入れて、を繰り返します。ひたひたになったところで砂糖(我が家はてんさい糖か粗糖)を入れます。分量は自由ですが、わたしはあまり甘すぎないように、かつ物足りない感じにならないぎりぎりの線を狙います。

 仕上がりの水分量(というか焼酎量)については、わたしはホットドリンクにするのが好きなのでシロップとしてある程度残るようにしますが、ジャムのように使いたい、あるいはお菓子の材料にしたい場合は水分を完全に飛ばしてもよいかと思います。

 火入れを繰り返しながら、水分量、甘さをたびたび確認して、「あ、いま!」と思ったときができ上り。甘さも、水分量も完全に自由なので、自分の好みに仕上げてください。

 もし、手元によいはちみつ(たとえば、非加熱の土地のもの)があったなら、粗熱がとれてから加えます。高温だと香りが飛び、味もそこなわれるので気を付けて。はちみつの華やぎのある香りと風味からは、思いがけない奥行きと広がりが生まれます。加える量は、全体の甘みが強くならないように、かつ香りと風味がしっかりでるを見きわめます。

 熱いうちに瓶につめてふたを閉め、完全に冷めたら冷蔵庫あるいは寒い場所があればそこに保存します。保存の目安はだいたい1-2か月程度。最後に脱気処理をすれば常温での長期間保存が可能ですが、糖度をかなり上げる必要があるのと、脱気の時点で高温になることによりはちみつの良さが薄れてしまうのと、そもそもが手間なので、今のところこの保存方法に落ち着いています。

 瓶は大体50~80ccのちいさな瓶を使っています。このサイズだと、フレッシュさが残っているうちに食べきれます。自宅で食べる場合も、1週間程度で食べきる方が、気持ちがよいです。もし、自分が思ったほど食べなかった場合はさらにお裾分けします。

 さてできあがったものの楽しみ方ですが、断然おすすめなのがお湯割り。煮た金柑とシロップ、焼酎(これはおいしい方がいい)をお湯でわります。厳冬にふさわしい深みと底力のある飲み物です。アルコールが苦手な方は、焼酎抜きのホットドリンクとしてもたのしめます。

 ジャムのように、トーストやヨーグルトとともに、パウンドケーキやマフィンんどのお菓子に焼き込んだり、あるいはそのまま食べても。

 苦み、酸味、甘み、そして香りのそれぞれが強く主張する金柑と焼酎の組み合わせはきりっとした清冽さと甘やかさが同居する、安定感のある冬の味。火入れ後の発色がよいのもうれしく、できあがった瓶詰を眺めながら、今シーズンも金柑しごとをやりおおせたことに安堵するのでした。