インドでシク教徒に会う①「大雨の中で立ち往生」

インド最終日、タクシードライバーは立派な体躯に頭に布を巻いたシーク教徒だった。その前日、ホテルから随分はなれた場所に仕入れに行き、途中洪水のような土砂降りに合った。

いつもだったら安いオートリキシャ―を拾うところだが、びしょびしょに濡れて、荷物も多かった。加えてあちこちの道が冠水したり沈没していたりしていそうでおそろしかったので、高くはつくが身の安全には変えられない、とお店の人にタクシーを呼んでもらったのだった。

 いったいどんな人がやってくるのか。店員とドライバーが協力して観光客相手に法外な(あるいはまずまずの上乗せ)料金を要求するのが日常茶飯事のインドで、これはかなりリスキーな選択だった。

もちろんこういうことはしない方がいいのだが、お店の人はきちんとしている風だったし(オーガニック食材店)、ほかに選択肢もなかったので、まあ何かあったらそのときでなんとかするしかない、と覚悟を決めた。

 40分ほど待っただろうか、土砂降りが続く雨のなか、黒い布であたまをぐるぐる巻きにした50代と見られる男のひとがこちらへ向かってきた。

ひげをはやして立派な体格。目がぎょろりとしたその人は、浅黒い肌のよく見かけるインド人とはずいぶん違う様子だった。聞けばシク教徒だという。見るからに堂々としていて、ちょっと怖い雰囲気がして、すこしひるんだ。

 車は古びてはいたが手入れがよくしてあった。ドライバーの名前はバルジ―ト。こんな天気で、道は渋滞、車はちっとも進まない。つまり、時間はたっぷりある。ずぶ濡れで寒いという身体的不快感からすこしでも気をそらしたいのと、「本物のシーク教徒にあれこれ聞く機会はこれを滅多にない」という理由で質問攻めにする。

シク教ってどんな宗教?

 となりで夫が「シク教徒」について検索している。概略は以下のとおり。

シク教は、16世紀のムガール帝国時代に北インドのパンジャブ地方で発祥。インドにおけるシーク教徒の割合は1.7%とマイノリティだが、(主流のヒンズー教は約80%、イスラム教は約15%)発祥の地であるパンジャブ地方では、過半数を占める。ちなみにインド発祥の仏教は何と全体の0.7%!

シク教の教義は合理的、現実的、寛容的なのが特徴。他宗教に対してもおおらか、富裕層や社会的地位の高い人が多く、働き者。

インドの根強い習慣であるカーストを否定していること、肉は何でも食べて言い(ヒンズー教で禁止している牛も)、ほかの宗教を尊重する、同性愛に対する差別の禁止など、16世紀発祥とは思えないほど進歩的だ。

特徴的なのは、「体毛を一切剃ったり切ったりすることの禁止」。男のひとの腰まで伸びた髪はそのままだと生活がしずらいのでターバンで巻いている。ターバンはヘルメットになるとされ、法律で免除されているらしい。たしかにあれではヘルメットはいらない!

聞けばやはり彼もパンジャブ出身で、デリーに出稼ぎに来ているとのこと。二人の子供には高等教育を受けさせ、彼らは今医療系の専門職についている、と誇らしげに語る。

「タクシーに休みはないから」と昼も夜もなく長時間働いていて、毎日礼拝所に行くという。本人は小学校しか出ていないようだが、英語も上手。こちらの意図が驚くほどよく通じる(インドでは話が混沌としてしまうのが常)。おそらくまじめで勤勉なのだろう。

 そんな話を聞きながら、明日の移動はこの人にお願いしたいね、と話す。明日はインド最終日、朝からゴミの最終処分場の見学、最後の買い出し、そして夜には空港へ、スムーズな(そして神経がすり減るような交渉のない)移動が必須。

値段を聞くと「4時間だと**ルピー、8時間だと**ルピー、1日だと**ルピー」と明朗会計。ホテルに着くと、請求された値段もしごく妥当。これなら安心、と明日の予定を伝えて、ホテルへの迎えを頼む。

それなりのホテルでタクシーを手配してもらっても倍額を要求されたりすることがあるインド。大雨で立ち往生したが、良い運転手と出会えた、と二人で喜ぶ。

ごみの山脈へ

翌日、時間ぴったりにホテルを出ると、バルジ―トはすでに車の横に立っていた。とはいってもこれは珍しいことではなく、予約したタクシーが時間に遅れることはほぼない。約束だから、ではなく、実入りのよい仕事を逃さないために。

ほかのことだといくらでも遅れたり、約束を守らなかったり、が当たり前。さらにみな一様に悪びれないので、日本人の感覚と随分ちがうのだなあ、と毎回感心する(そして毎回疲弊する)。

さて、まずは夫の仕事(とはいっても自主的な調査)でもある、インドのごみの埋め立て地へむかう。高く積まれたゴミの山はもはや山脈。

ゴミの山にはすでにダンプカーが通れるくらいの道までついている。ごみの山に登りたいと思ったが「関係者以外立ち入り禁止」とのこと。たしかにいかにも危険そう。

車で移動しながらあっちから眺め、こっちから眺め、熱心に写真を撮る。周りのひとは「このひとたちなんでゴミの写真とってるの?」と不思議そうにわたしたちを眺めている。

屋外食堂で昼ごはん

何カ所か回ったので、気が付いたらもうお昼。ホテルの近くの行きつけの屋外食堂で昼ご飯。

南インドに住んでいたので、北インドのこってりカレーは新鮮。南インドはご飯+さらさらで酸っぱいカレー、北インドはチャパティ(パン)+濃厚カレー。南インドカレーは消化がよくて(2時間でお腹がすく)、北インドカレーはいつまでたってもお腹がすかない。

北インド料理は、ヨーグルトや生の玉ねぎををかじりながら食べるとすっきりと食べられる。チャパティだけだとお腹がくちくなるので、ご飯があるところでは注文する。

 午後は、食器屋とスパイス屋をまわり、ココナッツジュースを道端で飲み、夜ご飯用にお昼を食べたお店でテイクアウトする。空港での食事は高くておいしいとは言い難いので、ここはとびきりおいしいカレーを空港に持ち込んで、長い待ち時間をたのしいご飯時間に変える。

チャパティをたくさんとカレー2種類。それからサモサ。カレーは持参したステンレスの弁当箱にいれてもらう(写真右)。ホテルで荷造りをしてから、再びシーク教徒のタクシーに乗ったのだった。

「インドでシク教徒に出会う②」へ続く

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