2020/6/25
ひさしぶりに、お客さんを夕食にむかえることになった。どんなときも普段の延長線上で、と心がけているので買い物には行かない。なので、たくさんあったビーツでボルシチをつくった。ほんとうはおいしい牛肉の小間切れかベーコンをすこし入れたいところだけれど、あいにく手元になく、ならば野菜だけで。材料は、ビーツ、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、それからほんの少し残っていたトマト。 去年の夏に、ロシア人がつくってくれた野菜だけのボルシチを思い出しながら野菜を刻んで、炒めて、塩を振って、蓋して蒸らし炒めして…を繰り返す。最後にかぶるほどの水を加えて煮込む。 たくさんビーツが入ったのでいつもよりいっそう色鮮やかに、そしてあっさりと軽やかなボルシチが大鍋いっぱいでき上った。これから暑さが増してゆくこの時期に、こんなボルシチもいい、と思った。
ビーツも、にんじんもなくなり、いよいよ食材がなくなってきたのと、ボルシチを完成させてほっとしたことの両方があいまって、夫に「ボルシチができたから、あとはおむすびとぬか漬けをお出しする」と宣言したところ、「その組み合わせはいくらなんでも…」と困惑の表情。「普段通りの我が家ということでいいとおもう」と強硬に主張する私に対して、説得不可能と感じたのか、「じゃあ、僕がソーダブレッドを焼くよ。パレスチナのスパイスを入れて」ということで、落ち着いたのだった。
すると、今度はわたしが、「ボルシチとソーダブレッドだけじゃなぁ」と思い始めた。今、我が家にたくさんあるのは赤玉ねぎ。そういえば、以前買ったキヌアがどこかにあったはず、とごそごそさがすと、あった!キヌアは、栄養価が高いと言われている雑穀で、スーパーフード的存在だとか。私は、栄養価というよりは、使いやすさや食感、見た目が好きで、10年ほど前の菜食時代にはよく使っていた。ちょっとめずらしい素材だから喜んでもらえそうだし、生の赤玉ねぎとは好相性、ひさしぶりに作ってみよう。
と思っていると有機農家の友人から「とうもろこしのC品があるんですがいかがですかー」と電話があった。「ちょうどよかった!お客さんが来るのに食材がほとんどなくて…」と12本届けてもらうことに。このとうもろこし、すばらしくおいしいくて、旬はいっときだとか。無農薬で育てるのはとにかく大変で、虫にちょっと食われただけでも出荷するのはむずかしいらしい。C品とはいっても、実質はA品、というかA品以上の価値があると思う。パッケージフリーで木箱に入れて持ってきてくれるのもうれしい。
ということで、キヌアのサラダには赤玉ねぎととうもろこしをいれることに。とうもろこしは蒸して、包丁で実を外してすこしの塩をまぶし、粗熱をとって冷やしておく。にんにくは細かく刻んで、赤玉ねぎの粗みじん切りとあわせてこちらも冷やしておく。キヌアは洗って、倍量の水とひとつまみの塩、オリーブオイルひとまわしとともに火にかけ、沸騰したら弱火で10分、火を消して15分ほど蒸らす。ボウルにあけて、ざっと水分を飛ばしながら塩とビネガーで下味をつけておく。ビネガーは酸っぱいものなら何でもいい。今回はいただきものの香りのよい上品なシェリービネガーと梅酢、米酢をそれぞれボウルに振り入れた。
すべてがすっかりさめたら(大事です)。大きなボウルにまずキヌアを入れてオリーブオイルをまとわせる。それから、とうもろこし、赤玉ねぎににんにくを加えて、さらにオリーブオイルをたっぷりと。野菜だけなので、こくはオイルで出す。じつのところ、このサラダの味付けのメインはオリーブオイル。おいしくて質のよいエキストラバージンオイルであれば、たっぷりつかっても油っぽさや体に負担はまったく感じない。
塩と石鉢でたたきつぶした胡椒を加え、味を見る。とうもろこしと黒胡椒は好相性なので、普段より多めに。酸味が足りなければビネガーを足す。そういえば、末っ子の畑にイタリアンパセリがあったはず。一緒に苗を買って植えたのに、私のはなぜか消滅してしまったのだ。キヌアのサラダにはハーブが入ると、フレッシュ感が出てうんとおいしくなる。ちぢれパセリでも、イタリアンパセリでも、コリアンダー(パクチー)やディルもいい。「風味付け」の量ではなく、あったらあるだけ入れると異国のワイルドなおいしさになる。
できあがったキヌアのサラダはとうもろこしがその魅力を存分に発揮していた。躍動感とあまやかさ。すこし辛い赤玉ねぎとあいまって、いくらでも食べられた。ボウルにいっぱいつくって、みんなでこころゆくまで食べて、そして残ったものをよく冷やして翌日残ったソーダブレッドのかけらとともに食べるのも、また心安らぐしあわせのひとつのかたちなのだった。