あくまきをつくる

 鹿児島出身のお隣さんから「あくまき」という郷土菓子をいただきました。竹の皮に包まれた、みっちりとしたその姿。聞けばかの地では「ちまき」とも呼ばれており、端午の節句につくる習慣があるそうです。

 さっそくしっとりとした竹の皮をひらいてみると、透明感のある濃い琥珀色のつやつやとした塊が姿を現します。一口食べてみると、独特の魅力的な香りと味。触感は弾力に満ちたわらび餅。添えられたきなこ砂糖をふって食べると、その素朴とも複雑とも言える味わいに陶然、瞬間、心をわしづかみにされてしまいました。

 「これは!」とさっそく作り方をネットで調べてみると(便利な世の中になったものです)あくまきは、灰汁(あく)にもち米をひたし、竹の皮に包んで灰汁入りのゆで長時間ゆでるだけ、だそう。つまり、材料はもち米、灰汁、竹の皮のみ!なんという潔さ、そして主役は未知の存在「灰汁」。これは何としてでも作ってみたい。

 そういえば、友人から掃除用にと分けてもらった薪ストーブの灰があったはず。 あくまきの味は良質の灰(樫や柑橘の剪定枝や大豆の殻など)からとれる灰汁で決まるそう。 友人に素材を聞くと「樫の木が主で、紙は一切いれていない」とのこと。理想的な灰がすでに我が家にあったことに運命を感じたのでした。

 もち米はたっぷりあるので、残るは竹の皮だけ。どうやら孟宗竹の皮をつかうらしい。ちょうど先日近所で筍掘りをさせていただいたので、「皮とらせてください」とお願いにあがると、「あれは真竹だからどうかなあ。でもどうぞ」と言っていただく。山に入ってみると、まだ皮は乾いておらず、そして取れそうな根本の方は高さがなくて包むには足りなさそう。うーん、と思いながらもとりあえずみずみずしい皮を採らせてもらい、心細い気持ちで家に戻るとほどなくして「あの皮はつかえないででしょう、ちょっと探しみたらいい場所があったから…」とご近所さんがサンプルの竹の皮(理想的な状態と形状!)を片手に登場。「これです!」と歓喜する私。

 灰汁は、コーヒーをドリップするように灰に熱湯を注いで布で漉します。

こんな風に布をつかって漉します

単純な材料ながら、分量の割合は多様で、どうやら灰汁の質と量で味がかわるらしいのです。 参考にしたレシピの分量は、灰2kg、もち米3升、竹の皮40枚、つまり40本分と豪快。昔のひとは(もしかしたら今でも)、屋外の鉄鍋でぐらぐらゆでたに違いない。ガスを使わずエネルギーも自給….!目指す世界がここにある。たくさんつくってご近所にもおすそ分けすると読んで、なるほど。 「灰汁は多いと苦いので通常の5分の1くらいにします」という人も。

今回は以下の分量で。

500gの灰から灰汁1.8ℓをとる
餅米7合
竹の皮12枚(40センチ×20センチくらいが理想的)

1.もち米を洗い、灰汁に一晩漬ける(今回は灰汁1ℓプラス水400cc。なめてちょっと苦いくらい)
2.竹の皮を水に一晩浸す(やわらかくするため)
3.翌朝もち米をざるで1時間水切りする(灰汁は茹でるときに使うので取っておく)

こんな風に淡い黄色に染まります


4.竹の皮の上下を折って重石をしておく(成型しやすくなる)。竹の皮からひもをつくっておく(1つにつき3本)
5. もち米を竹の皮にかるくご飯茶碗一杯分のせて、下、左右と折り、縦にしてとんとんと米を下に落とし、上の部分を折って、ひもで3カ所ゆるめにしばる。

お茶碗かるく一杯分
ひもは竹の皮を割いてつくります。棕櫚(しゅろ)の葉でも。


6.家で一番大きな鍋(アルミ以外)に水で薄めた灰汁と枇杷の葉10枚ほどを入れ、3-4時間ゆでる(途中上下を入れ替える)。

なぜ枇杷の葉をいれるのかは不明ですが、たしかにいい感じ。
水がすくなくなってきたら足しながら、巨大鍋でえんえんとゆでます。


7.できあがったら縦において水分を切る。
8.食べるときは包んであるひもで切り分け、(ナイフだとくっついてしまう)きなこ砂糖とともに食べる。

できあがり!時間がたつにつれ、色が濃くなってきます。

 茹でると、もち米の膨張圧力で、ゆるめにつつまれていた包みが次第にふくらんできます。できたては硫黄の匂いが強めで、色もまだ淡く、それはそれでひとつの醍醐味あるおいしさですが、5日ほどすると匂いが消えて、透明感が出て、味もこなれてきます。灰汁のアルカリと竹の皮の抗菌作用で非常に日持ちがよく(そもそも起源は兵糧だとか)常温で1週間、冷蔵で3週間ほどもつとか。

ご近所さんと友人のおかげで完成!

  自分ひとりの力では到底たどり着けなかったあくまきの世界。その出会いから数日。おぼつかないながらも我が家にあくまきが誕生したことに感激しながら、まずはお裾分け。 あくまきの存在を教えてくださったおとなりさん、灰を分けてくれた友人、竹の皮を探してくださったご近所さんにご報告を兼ねてお届けします。

一日がかりのあくまき仕事、ながい長いいちにちだった、と思いながらおもむろに竹の皮をひらいて一切れ。できあがったあくまきをいただきながら、いにしえのひとたちから、知恵をひとつまた手渡してもらったように思えて、次なるあくまき作りを夢見たのでした。