2020/5/28
「あ、おちらしつくりたい」とひらめくように感じるのはたいがい毎年3月の初め頃。気温が上がり、空気がゆるみはじめるこの時期、酢飯のしゃっきりとした感じを体が求めるのだと思います。
おちらしをつくるとなったら、一も二もなく準備にとりかかります。 具は末広がりの八種類(となぜか決めている)。とはいえ、ご飯に混ぜ込む白ごまや海苔、上にのせる錦糸卵も入れての8種類なので、思い立っての当日仕込みでもなんとか間に合います。春だったら筍。お豆のころはゆで上げたきぬさやのせん切り。塩煎りにんじんやごぼうを甘辛く煮たり、お揚げを香ばしく焼き付けたものなど、買い物はせずに、とにかくあるものでまかないます。
わが家の酢飯は、酢とゆず酢(柚子果汁のことを高知ではこう呼びます)を半々、梅酢、砂糖、塩でつくります。すべてを瓶にいれてふたをして振り、砂糖が溶けたところで味を見ながら足りないものを足すので、分量は計ったことがありません。高知の山では、秋の柚子の収穫の時期に一年分のゆずを絞って保存して、さまざまな料理に使います。去年山の上ではじめて絞らせていただいたゆず酢が一升瓶にたっぷり入っているので、今年は何回だっておちらしをつくれるとおもうと満ち足りた気持ちになります。
お米はだいたい9合ほど。家族の夕ご飯と、明日の朝と(蒸して食べるとまたおいしい)、それからおすそわけ。おちらしはシンプルだけどそこそこ手間と時間がかかるので(その日のエネルギーをすべて投入する感じ)、我が家で食べておしまい、ではもったいないのがその理由。そんな訳で、おちらしとおすそ分けはわたしにとって分かちがたく結びついています。
先日、今年になって6回目のおちらしを食べながら、おいしいおちらしの条件について考えました。結論は次の通り。多様な酸味が調和した酢飯と、たっぷりの錦糸卵(水溶きくず粉を入れるとみやびやかな触感になり、細く切れる)、海苔の上等をたっぷりと混ぜ込み(上にも散らす)、酸味と歯ごたえのあるものを混ぜ込むこと(新生姜の甘酢漬け、たくあんのみじん切り、酢蓮など)。
今年は筍をたくさんいただいたので、ナンプラーを加えて甘辛く炒め煮にしたエスニックな香りのする筍ちらしをたびたびこしらえました。おとなりさんが摘んだワイルドに繁ったたらの芽や、いただきものの赤えんどうをたっぷり混ぜ込んだことも。おちらしは作っておけるから、夏も食べやすく、これからの季節もたびたびつくると思いますが、いつだって手元にあるものやいただきものを寄せ集めて、「そのとき限りのおちらし」ができあがるのが、ほんとうのところの醍醐味だと思うのです。