クリスマスギフト

12月25日の朝、中国地方に向かって車を走らせた。家族旅行でも帰省でもないけれど、中国地方に2泊する必要があった。

 仕事ではない純粋な旅行はここ10年数えるほど。そのほとんどが、パートナー(と夫のことを呼んでみようと思う)に3人の子供を託しての一人旅。

 家族での移動は、あらゆることが大変で考えるだけでひるんでしまう。しかし、今回は心強かった。京都時代に出会い、その後中国地方に移住した友人家族が「泊まっていいよ~」と軽やかに言ってくれたのだった。

娘を広島に送り届け、夫と末の子3人で岡山の友人宅に滞在させてもらう。

おみやげの干し柿

男の子が3人の5人家族。田んぼや畑は自然農、お風呂とストーブは薪、古民家を自力で改修して暮らす、私達の友人の中でもトップクラスに「できる人たち」。

古民家は寒いのでと、たっぷりと薪をつかって部屋をあたため、広々とした部屋に、寝心地のよいお布団にゆたんぽ2つ。薪で沸かしたお風呂はしあわせそのもの。

朝食はあこがれていたお店のパンをわざわざ用意してくれていて歓声を上げる。自家製パンと、おいしい紅茶もたっぷりと。貴重な自家採取蜂蜜を、息子が遠慮なくたっぷり塗る手を見とがめて、「たくさん塗りすぎ!」と牽制するのも旅先だとなんとなく楽しい。

えんえんと紅茶を飲み、うすく切って焼いたパンを時間をかけてかづつかじりながら、テーブルを眺めるだけで幸福になる。

夕食はロケットストーブの上で一日目はピザ、二日目は餃子。
ピザ生地は自家製で、餃子の皮も粉からこねる。

「料理して、食べて、片づけて」と普段はせわしない日々なので、時間をたっぷり使って一緒に作ること自体がすでに娯楽。しかもピザのトッピングや餃子のたねはすでに用意してくれている天国状態(興奮しすぎて写真を撮るのを忘れてしまった!)。

日中は、鎌の目立てをしてもらいながらの「お悩み相談」(私のです)、薪割りや田んぼを見せてもらったり、里芋を掘ったり。お米を脱穀したあとの稲わらで「縄づくり」も。

自然の近くで「サステイナブル」を目指しつつ暮らしている私たちではあるけれど、実際はかなりヤワに暮らしているので、見るもの聞くもの驚きと尊敬の連続。ほとんど「あこがれの田舎暮らし宿泊体験」状態である。

切れなくなった鎌の目立てをしてもらう。
いつか自分でできるようになりたい…!
木を切り倒し、運んで、切って、割って。燃料自給のプロセスを垣間見せてもらう。
かっこよすぎる4人の男子!
「去年の里芋すごくおいしかった!」と言ったら
「掘りにいきますか?」
お米をつくると稲わらができる….うらやましがる私達。

夜は土地のすばらしいワインや何種類ものシュトーレンをいただきながら、あっという間に深夜に。最後はスペシャルなボディーワークまでしてもらい、こんなにしてもらっていいのだろうか?これは夢?

現在我が家のナンバーワンワイン。
このワインと出会えたのはふたりのおかげ

出発の朝、用意してくれた朝食のテーブルは離れがたく、出発時刻はとうに過ぎているのに、話したいことが次々と頭に浮かんでしまう。
去りがたいのもまたひとつの幸せのかたち。

里芋に、土地の果物、手製のスコーン、大きな稲わらの束をふたつに豆餅。おみやげをたくさん持たせてもらい、これ以上はないほどの「旅のギフト」を手渡してくれた友人家族の心の広さに胸が熱くなる。

実は旅が苦手である。

旅が嫌いなわけではない、むしろ非日常とあらたな土地との出会いを切実に求めていると思う。

それでもわたしの前にはいくつものハードルが立ちはだかる。 荷造り、移動、子供たちの不平不満。朝の牛乳入りの紅茶がないのは恐怖に近く、外食する場所を選ぶのにも一苦労。

こう書くと、なんだか気難しい人みたいでなんだかいやだなあ、と思うけれど、努力して変わるものでもなさそうなので、まあしょうがない。

それなのに、今回の旅はなんの憂いもなく、楽しいばかりだった。苦手な荷造りも、運転もしたのに、まったく不思議である。

おうちのお布団。家庭の台所から生まれるごはん。 朝の紅茶の安心感。友人家族の暮らしにすべりこませてもらって過ごす時間。

今回の旅はクリスマスプレゼントだったね、と話しながらふたたび広島に向かい、数日前よりすこし大人びた顔つきになった娘をピックアップして、瀬戸大橋をわたって高知にもどったのだった。

スコーンと、つくらせてもらった縄、土地のネーブルオレンジ