「アチャールのもと」

 アチャール、はインドのスパイシーな漬物。作り方はごくシンプルなものから熟成させるものまで多岐にわたる。わたしがここ数年作っているのは、きざんで塩した野菜とあえればすぐにアチャールができる「アチャールのもと」。

 「アチャールのもと」は一年に一度、たくさん作る。材料は、熟成させたゆずの塩漬けとスパイス。柚子の塩漬けは、秋に無農薬柚子がたくさん手に入った時に仕込んでおく。種を除いて賽の目に切って、20%の塩にまぶして隙間のないようぎゅっと瓶につめるだけ。春までは常温保存でその後は冷蔵庫へ。3か月もすれば使えるようになる。

スパイスはマスタードシードをベースに、クミン、フェヌグリーク、レッドチリ、シナモン、フェンネルシードに黒胡椒、それからカレーリーフ。フライパンで乾煎りして香りを出すか、油でテンパリングする。

 材料さえそろえば、手順はシンプル。バイタミックス(アメリカ発のハイパワーブレンダー)に、スパイスと柑橘果汁(柚子やレモン)をいれてペーストにする。ボウルにあけて、柚子の塩漬けと混ぜながら味を決めてゆく。分量に決まりはなく、てんさい糖や梅酢など、味が複合的になって深みがでるように、味見をしながら調整する。

 すぐに使う分は小瓶に詰め、熟成させる分は大瓶に詰めて冷蔵庫の野菜室へ。水曜カフェで出しているカレーには、かならずこのペーストをつかったアチャールを添える。酸味と辛み、香りが複雑にパワフルで、食べるたびに、インドだなあ!と思う。

カレーに添えるのもいいけれど、揚げ物にちょっとつけたり、はたまたご飯にそのままのせてもおいしい(わさび漬けの感覚)。

 ここ数日食欲がなかったが、少しはなにか食べないとと思いついたのはハムエッグ。知り合いがつくった立派なハムのまるごとが、ある日半額になっていたのが今我が家の冷蔵庫に入っている。フライパンに油をひき、厚めに切ったハムを入れる。伏見甘長もあったので、ハムの横で一緒に焼く。ハムは両面に黒胡椒をふり、しっかり焼けたら卵を落として塩を振る。少ししたら水を注いでふたをして蒸し焼きにする。

 その間に赤玉ねぎを薄切りにして、ぬか漬けのきゅうりをたたたた、と切る。ごはんの上に、ハムエッグ、その上に赤玉ねぎの薄切りとアチャール、脇には甘長の焼いたのとぬか漬け。所要時間は10分ほどだろうか。

まんなかに乗ってるのが「アチャールのもと」

 「アチャールのもと」はいろいろなものに付けながら食べる。いちばんおいしかったのが、焼いた甘長+アチャール。青唐辛子を思わせる味になる。それから生の赤玉ねぎにとの組み合わせにも魅惑的な異国感が感じられた。インドの夏は50度まで上がるので、その暑さに耐えうる食べ方がスパイスの多用、ということなのかもしれない。辛さと酸味は体をすっきりとさせ、食べ物の傷みも防ぐ。実に合理的。

 食欲のないお昼ご飯も、アチャールひとつで食が進む。家の前に植えたゴーヤも花が咲き、収穫までもうすこし。ゴーヤのアチャールはすこぶる評判がよい。苦みとスパイスが合うのだろうか。硬めのしゃっきりとした歯ごたえもいい。こんなふうに、来たる夏に備えて、食べ方を日々実験してゆこうと思う。