2020/6/8
肉や魚を調理するときには、必ず香味野菜を使い、食べるときは、薬味をたっぷりと添える。ときには薬味そのものを体が求めて、お肉を買いに車を走らせる、ということもある。薬味は決して主役にはならないけれど、なくてはならぬ存在だと常から思っている。
高知では、ゴールデンウィークを過ぎたらいきなり夏に突入するので、いきおい冷たい麺の出番となる。薬味は生姜、小葱、白ごまの半擦り、しそや茗荷はまだまだ先のたのしみに。なにもなければきゅうりのせん切りだって立派な薬味となる。
夏になったら薬味をたっぷりと包んだ生春巻きをたびたびこしらえる。具は、リーフレタス、きゅうり、数秒ゆでたもやし、ビーフン。それから土佐赤牛の小間切れを焼いて、醤油とバルサミコ酢で味付けたもの(なければお揚げをフライパンで空焼きして最後に醤油でじゅっと両面を焼き付けたもの)。なるべく買い物が少ないように、と試行錯誤していたらこの形になった。薬味は、にら、しそ、ミント、コリアンダー、みょうが、にんにく、をたっぷりお皿に盛り、各自が巻くときに好きなだけのせる。砕いたピーナッツがあったらなおいい。たれはナンプラーににんにくの薄切りと生の青唐辛子(なければ乾燥の赤唐辛子で)、砂糖を入れて、レモンも絞り入れ、そのままだと濃すぎるので、ちょうどいいくらいになるように水で割る。
高知のソウルフード、かつおのたたきにも薬味が欠かせない。 一つだけ選ぶならば、だんぜん玉ねぎ(赤玉ねぎだとなおいい)。ごく薄い薄切りにして水にさらし、「きっちり水気をきって」冷蔵庫で冷やしておく。にんにくの薄切り、小葱、みょうが。もしあれば、クレソンやルッコラ、コリアンダーも。サラダと薬味のちょうど中間くらいのすてきな効果を生む。
まず冷やしたお皿ににんにくをこすりつけておく。肝心なのは重ねる順番。一番下には玉ねぎをしきつめる(たれが浸み込んで、食べ進めてゆくうちにマリネのようにがねらい)。その次にかつおのたたきをのせ、オリーブオイル、塩、胡椒を振る(まずオイルをまわしかけ、塩と胡椒が直接かつおにかからないようにする)。にんにくの薄切りをかつおに貼りつけるように均等にのせ、あとは自由にかつおが見えなくなるほどに薬味の地層をつくり、食べる直前に上から柚子酢(柚子果汁)と醤油をあわせたものをまわしかける。あるいはオリーブオイル+醤油+梅酢(柑橘果汁か酢でも)。
また、ある日の昼食。採ったばかりの淡竹(はちく・初夏に出るほそい筍)をいただいたので、湯がいてから鶏肉と生姜とじっくり炒め、山椒の実を漬けた醤油で味をつけた。ごはんのうえのたっぷりのせて、仕上げは薬味。針生姜、畑のコリアンダーの葉と実、山椒の実の醤油漬け、それから石鉢でつぶした黒胡椒。口に入れるごとに薬味の組み合わせが変化するので、最初の一口から最後まで、新鮮なおいしさに満ちている。 薬味はそれだけでは活躍できないけれど、強いうまみのあるものと手をつなぐと、輝きをはなち始め、結果、料理にくっきりとした輪郭を生む。
今年は作れそうにないと残念におもっていた実山椒の醤油漬けを、びんにたっぷりいただいて歓喜した。肉でも魚でも何にでもにも合う。こと春から初夏にかけてたびたびいただく筍との相性は抜群。日々繰り返される料理のただなかにあっては、 ふたをあければすぐ使えるのもうれしい。ちりめんじゃこを炊くときに入れたり、炊き込みご飯の上にのせたり、お弁当にそのまま散らすことも。いただくたびに、鮮烈な刺激と香りで目が覚めるよう。
そんなわけで、薬味の効果は計り知れず、費用対効果も抜群に高く、消化の助けにもなるので、体力と気力に余裕があるときは、一種類でも多く用意したいと思う。手元になにもないときは、たったの1分、と自分を鼓舞して、ほそい坂を駆け上った先にある、裏の畑に生姜を堀りにゆく。薬味は、それほどにも大事なものなのだ。