ボルシチをつくる

 さむい冬にビーツをたくさんいただいたなら、一も二もなくボルシチをつくります。ボルシチはロシアの国民的料理で、深紅色をしたビーツと野菜、牛肉でつくるスープです。外国の料理はおしなべて魅力的だけれど、素材調達がなかなか大変だったりします。でもボルシチは別!わたしは牛肉の薄切り以外は特別な買い物はしません。

 肉以外の食材としては、たまねぎ、にんじん、じゃがいも、きゃべつにトマト(缶詰でも)があれば十分。基本的に、家にあるものでつくります。だいたい豚汁のイメージでつくればよいかと思います。日本では、ビーツの入手が難しいため、トマトで代用できると説明されることもありますが、それではトマトスープになってしまいます! ボルシチの醍醐味はあのショッキングな色彩にあるので(でも味は見た目よりずっとあっさり)、やっぱりボルシチは、ビーツで。

 基本的に、材料を切って、炒めて、煮込んで、味付けするだけですが、おいしくするには野菜を炒める段階で、時間をかけます。

 まず、多めのオリーブオイルでたっぷりの薄切りにした玉ねぎを炒めます。火が通ったら塩をひとつまみしてさらに色が薄茶色に変わって、甘みが出るまで炒めます。これが、スープのベースになるので気を抜かずに。次に千切り人参、千切りのビーツとその葉っぱの順番で、それぞれ火が通ったら塩ひとつまみしてさらに炒めます。次にじゃがいも。これは一センチ角くらいに切ります。最後に千切りきゃべつ(白菜でもOK)を加えます。火が通ったら塩一つまみ、そしてさらにきっちり炒める、はどの野菜でも共通の工程です。

 「塩一つまみ」の理由はその方がよい味になるから。奥にとどまっている野菜のうまみを炒める段階で引き出しつつ、余分なものを蒸気とともに発散させていくイメージです。酸味があるとおいしいので、トマトも切って入れます。今、わが家の冷蔵庫には先日仕込んだザワークラウトがたっぷりあるので、今回はそれも投入しました。 

 フライパンに油を引いて、牛肉の薄切りを炒めて、スープの鍋にいれます。牛肉の代わりにベーコンを使ってもよいです。
 
 肉はスープの出汁的につかうので、良いものをすこし。今回は、15皿分のボルシチに200g。一皿あたりの肉の量は、わずかです。たくさん入るとおいしいので、好みで増やしてもかまいませんが(お誕生日のごちそうのときとか)、肉が少なめの方がたっぷりたべても体がすっきりするし、そもそも良い肉は高いのでそんなに量が買えません。その分おいしい野菜をたくさんつかい、じっくり炒めることで、よい出汁が出るようにします。

 肉を炒めた鍋は、洗うのに難儀するので、わたしはいつも100ccくらいの水を入れて火にかけ、沸騰したらスープの鍋にいれる、を数回繰り返します(どちらにしても鍋には水をいれるので)。そうすれば、後のフライパン洗いが軽やかになります。

 水は、具が隠れる程度に。スープ鍋にそのまま肉をいれて炒めてもよいかと思いますが、焼き付けてからの方が煮込んだ後の触感がよいように思います。

 あればローリエを入れ、中火で煮込み、沸騰したら弱火でくったりして良い感じになるまで煮込みます。(時間は適当ですが、2-30分くらい)塩で味をつけて、バターを入れます。

 バターを入れるのは、食べるときに必ず加えるらしいサワークリームが手に入りずらいので、そのかわりとしてバターの油分とコクに助けてもらうため。黒胡椒も入れます。

 最後に塩で味を調えて、できあがり。しっかり温めたスープ皿かスープボウルにたっぷり入れて、サワークリーム(我が家は水切りヨーグルトで代用、あるいはなしでも)、つぶした黒胡椒、あればディルかパセリのみじん切りを散らします。

 ディルがあると、とたんに異国情緒度が上がりますが、ちょっと手に入りずらいですね。もし簡単に手に入るようだったら、残ったディルは、じゃがいもだけのポテトサラダにいれるとおいしいです。

 ボルシチはそれ一皿で立派な食事になるので、パンかごはんがあれば十分。あるいは主食なしでも。写真は前回のカフェで出したものなので、サラダとおかずもついたおめかしバージョンです。

 冬の水分補給はスープでするのがいちばん、と思っています。体が芯から温まるし、長い時間かけてつくったスープを飲むと、とにかく元気になります。だから作るときは、翌日も食べられるように、家にある野菜をどんどん投入して、とにかくたっぷりとつくります。(今回は玉ねぎ7個、にんじん400g、きゃべつ一個、ザワークラウト500gにトマト1個。じゃがいもはなかったので省略)

 翌朝起きて、なんの料理をしなくても、あたたためるだけでよいスープがあると、うれしくなります。元気なときも、病気のときも、気持ちが落ち込んだときも、ごはんにも、おやつにも。どんなときでもスープさえあれば、しあわせな冬の時間が過ごせると思うのです。