2020/9/12
夏のさなか、隣のおじさんからバケツいっぱいの蜜蜂の巣をいただいた。数日かけて蜜を漉し、のこったのが空になった巣。これから蜜蝋(みつろう)がとれる。
蜜蝋づくりは5回目くらいだろうか。原始的な雰囲気に満ちた楽しい作業ではあるのだが、いかんせん道具のすべてが蝋だらけになるので、いささか気が重い。ボウルに山盛りになった巣を見る度に、目をそらしつづけていたが、涼しいある日、ようやく重い腰を持ち上げた。
必要な道具は、鍋、ざる、ボウル、混ぜるためのスプーン、布。いずれも蜜蝋専用にする必要がある。どこかで拾ったアルミ鍋、網が一部破けたざる、琺瑯がはげかけたボウルなどがふさわしい。布は、破れたシーツを適当な大きさに切っておく。
鍋の半分くらいに水を入れ、火にかけながら蜂の巣を入れる。山盛りになっても、溶けていくうちにかさが減るので大丈夫。
作業台には新聞紙を敷いておく。蝋が落ちると固まってあとで取るのが大変。熱湯で流すこともできるが、そののち排水溝の中で固まることになるので流さぬよう注意。
鍋の中身が十分に溶けたらボウルに水を張り、ざるに布をのせて漉す。布の中にはかすがのこり、ボウルの中には蜜蝋が浮かび上がり、冷えるにつれて固まってくる。甘い蜜の香りと濃い黄色、なんともいえない質感。
一度越しただけだと、不純物が入っているので、二度三度と同じことを繰り返す。精製度が高くなるにつれて、色も香りも薄くなるので、今回は2回で終了。使った道具は壮絶に蝋まみれだが、どんなに洗っても取れないので、そのままの状態で次回まで保管。
蝋がしっかりと固まったら、ボウルから取り出してできあがり。満月のような色とかたち。巣の量に比べて、出来上がり量は意外と少ない。
使い道はさまざま。肌につける保湿用のクリームや床や家具、皮製品用の蜜蝋ワックスの材料としてはもちろん、みつろうラップも作れる。巣箱に蜜蝋を塗ることで、ニホンミツバチを誘引することもできるとか。夢はろうそくをつくること(以前適当に作ってみたら失敗して大いに落胆した)。
できあがったばかりの蜜蝋を眺めていたら、北海道の友人のことを思い出した。去年の冬、蜜蝋とホホバオイルでつくった、ラベンダーの香りのするリップバームを送ってくれたのだった。小さな銀の容器に入ったよい香りのクリームは、そのなめらかさと香りで寒い季節の心細さをやわらげてくれた。
北の果てでの生活は、どれほど寒く、肌が荒れることだろう。冬の間につかうハンドクリームの材料にしてもらえたら、と思いながら、紙に包んだ蜜蝋を小包のすみにおさめたのだった。