ぬか床をつくる

 このような先の見えぬ社会情勢になって思ったのは、「見えないものと共に生きること」の大切さ。多種多様な菌が太古から存在していること、それに人間の知恵と経験が加わって、発酵食という文化が生まれた…というわけで、日本だったらやっぱりぬか漬け。

 かつて幾度か挑戦して、その都度手入れが行き届かず、不穏な気配とともにセメダインみたいな匂いが発生。敗北感と共に処分した苦い経験が思い起こされなかなか再チャレンジできずにいたけれど、「かんたんなので、なんどでも挫折できるし何度で、何度でも再スタートできます」と 写真家の寺澤太郎さんが かろやかに書いていたのに大きな勇気を得て、ぬか漬けワールドに飛び込んだのでした。

 材料の割合は、生ぬかと同量の水、生ぬかの10分の1の塩。すべてをかめに入れて混ぜ、最初の10日くらいはキャベツの外葉などを漬けて、日に何度かかき回して乳酸菌が活性化するのを待ちます。ときどき食べてみて、「あ、ぬか漬けっぽくなってきた!」と思ったら完成。あとは朝晩書き混ぜて、野菜を入れて、半日から一日待って、出して、切って、食べるだけ!

 ぬか床は生きているから、関係性が大事なのだ、というのが作り続けての実感です。朝晩様子を見て、調子はどうですか?みたいな感じで、かきまぜながら、おつきあいします。うっかり忘れてしまった場合は、「ごめんなさい!」と、気づいたら「すぐに」いつもより念入りに混ぜて、一日2回混ぜるところを3-4回にすれば大丈夫。人間関係と一緒で、とにかく誠意を行動で表すこと。

 野菜をぬか床に入れれば、自動的にすばらしい漬物ができる。そして、 切りたてのぬか漬けとお味噌汁、ご飯さえあれば、それだけで充実した食事になるのも大きな発見でした。これから夏にかけて火を使う料理がしずらくなるので、ぬか漬け生活にますます拍車がかかりそうです。