はぶ茶をつくる

 高知の野草茶といったら、はぶ茶ときしまめ茶。かつては各家庭でも作られていたのだろうか。いまでもひとびとに飲み継がれていて、日曜市や産直、スーパーでもよく目にする。カフェインもないので、こどもから大人まで、いつでも飲める日常茶だ。

はぶ茶との出会い

 出会いは移住して間もないころ、知り合いの生産者さんからゴミ袋にぎゅうぎゅうにはいったはぶ茶をいただいたことだった。「煙がでるくらいまで焙じて、やかんにひとつかみいれてわかす」とおっしゃる。「胃にもいいから毎日これを飲んでいる」とも。おそるおそる煙をもくもくさせながら、焙じると香ばしい匂いが部屋に満ちる。鍋にひとつかみ、水をたっぷり入れてしばらく煮出す。飲んでみるとほっとするような、それでいて勢いのある味がして、「こんなお茶があるなんて!」と、すっかりとりこになってしまった。それから数年はその方からゆずっていただき、その後は直売で買い求め、ようやく3年前に種まきがはじまった。

はぶ草の育て方

はぶ茶の栽培になかなか着手できなかったのは、種が手に入らなかったから。市販品は見当たらず(需要がそれほどないのかもしれない)、毎年それぞれが種取をして翌年蒔く、というサイクルになっているのだろう。はぶ茶はどこでも売っているのに、種が手に入らない。知り合いにも作っているひとはおらず、なかばあきらめかけていたところ、直売で「はぶ茶のたね」と手書きシールが張られた袋を見つけた。やっと出会えた!と喜んで持ち帰り、さっそく種まきをした。

 種まきの時期は、春。だいたい4~5月ごろ。種まきもするが、前年のこぼれ種からあちらこちらに芽がでる。それを掘ってまとめて植えると「はぶ茶畑」の出来上がり。暑さが増すにつれてぐんぐんの背をのばし、8月には愛らしい山吹色の花が咲く。

はぶ茶の作り方

 全国的に、はぶ茶(えびす草、種はケツメイシ)は10月ごろにさやの中にできる種(決明子/ケツメイシ)を炒って茶にして飲むのが一般的なようだが、高知では、茎も、葉も、さやもすべて使う。大きく育った夏に収穫し、布に包んで木づちでたたいて汁を出し、よく揉んでから乾燥させる。飲むときは、香ばしく焙じて煮だす。このやり方、作っておられる方に教えていただいたが、ネットで探してもなかなか出てこない。今や作り手はほとんど高齢の方だから、作り方をブログやSNSにアップする、ということもないのだろう。なぜたたいて汁を出すのかがいまひとつわからず、そのまま乾燥させてみたこともあったが、似て非なるものができあがり、味もさほど魅力的ではなかった。たたいて汁が出たものをビニールに包んですこし発酵させる、方法を耳にした気もするが、まだためしたことはない。

 去年までは木づちがなかったので、お菓子作り用の細いめん棒をつかってたたいていたが、当たる面積がすくなく、筋肉痛になったりと、ずいぶんと苦労した。包む布は破れたシーツなどを取っておいて使う。

 しっかりと汁がでたら、「押し切り」という刃物で切って、干す。「押し切り」は近所の方の年代物をお借りする。もともとはわらを切るためのものだろうか?硬いものでもざくざくとよく切れ、その分危険もあるので、使う時はいつもどきどきする。

これが「押し切り」。硬いなた豆を切っているところ。

 えびらに並べて天日で干し、でき上ったら瓶につめる。煙が出るくらいしっかりと焙じて瓶につめておくと、1年間、いつでもはぶ茶がたのしめる。飲むたびに焙じるのが理想的ではあるけれど、ちょっとした手間でもあるので、ある程度まとまった量を焙じておけば便利。

 本来は花がさやになり、背丈もずいぶん伸びてから収穫するというひとが多いが、花付きのお茶をつくりたいので、いつも暑いさかりに収穫し、汗をかきながら木づちでたたく。

 はぶ茶は、わたしが作っているあわせ野草茶のベースとなるもっとも大切なお茶。年々収量は増えているとはいえ、まだ完全自給には遠く、足りない分は土地の方がつくられたものを使わせていただいている。種取りも習慣になり、こぼれ種からの発芽も初夏のたのしみに。一度にたくさん収穫して作るのは大変だから、毎日すこしづ摘んで作業するのが合っているということもわかってきた。

 土地で飲みつがれてきたはぶ茶を、これからさきずっと、種まきして、収穫して、お茶にして、と作り重ねていくのが野草茶づくりのたのしみでもある。 数年前手渡された、大量のはぶ茶とそのふしぎなあまやかさ。あの風味は、あとにもさきにも、それきりだった。そんなことを思い出しながら、 はぶ茶に出会ったときの夢―いつか自分で育てるところから作ってみたい―がいつの間にかかなったことに気づき、感慨深く思ったのだった。