夏ごはん

 夏がやってきた。とにかく暑いがなんとか扇風機をまわしてしのいでいる。朝はまだ涼しいので、お湯をわかして紅茶をいれたり、ご飯を炊いたりできるが、10時をすぎると火をつかうのがためらわれる。気温はぐんぐん上昇し、そしてお昼の時間がやってくる。

 最近の作戦は、朝のうちにご飯をたくさん炊いてしまうこと。炊くときに、梅干しを入れて腐敗を防ぐ。入れ忘れることもよくあるので、そんな時は炊き上がりに梅酢をすこし入れる。これで傷みが随分と防げる。炊いたご飯がすっかりさめたら昼ごはんの分だけ鍋に残して、残りは冷蔵庫へ。

 朝は炊き立てご飯、昼には冷やご飯を食べる。「冷や飯を食わせる」などという表現があるからあまりいいイメージがないかもしれないが、土鍋や鍋で炊いたご飯は冷めてもけっこうおいしいと思う。お弁当だって結局は冷めたご飯ではないか。わが家は電子レンジも炊飯器も手放して15年以上。家電の少ない生活は快適で満足している。

 冷やご飯はあたたかいおかずや汁物と食べるからちぐはぐな感じになるのであって、常温のものと一緒に食べればむしろ調和する。わたしが夏にいちばん頼りにしているのは、20数年前から作り続けている「夏ごはん」。

 材料は、きゅうり、なす、みょうが、すだち、醤油、ごま油、そしてちりめんじゃこ。野菜は薄切りにして塩してしばらくおいてから絞る。それに醤油とごま油を加え、すだちをしぼってちりめんじゃことあわせて冷めたご飯の上にのせる。火を使わないので、作るプロセスも涼しいし、すっきりと食べられて、夏には欠かせない。ポイントはごま油とすだち。ごま油でこくを出し、すだちの香りでまとめあげる。すだちはポリ袋に入れて冷蔵庫に保存すればけっこう長持ちする。他の料理にも重宝するし、ビールにしぼるのもおいしい。

 そんな風に作り続けてきたが、今年はぬか床を作ったので、「かくやごはん」として、「夏ごはん」のバージョンアップを試みた。「かくや」は古漬けをうすく刻んで、塩出しして絞り、みょうがや生姜の薬味と醤油で和えたもの。「ちょっとそのままでは食べずらい」漬物にひと手間かけて再生させるイメージ。

 まず、ぬか床に古漬けを作っておく(2日以上漬ける)。きゅうり、大根、なす、ゴーヤ、うりなど。薄く切って水に放ち、3分ほど待って味を見て、ちょうどよく塩が抜けたらきつく絞ってボウルに入れる。茗荷や生姜、しそなどの薬味が手近にあれば刻んで混ぜる。醤油を少量くわえて香りを出す。

 お昼ごはんには、この「かくや」にごま油とまだ青いブシュカン(高知の柑橘)の絞り汁をよく合え、冷やごはんにたっぷりとのせる。あれば白ごまの半摺りとブシュカンを添えて絞りながら食べる。途中で雰囲気を変えてのりで巻きながらたべるのも美味。ちりめんじゃこはあったら入れてもよいが、なしで禅寺的に仕上げるのもすがすがしいように思う。

乳酸発酵の酸味と、フレッシュな薬味と柑橘のさわやかさ。ごま油とすりごまの香りとこく。買い物に行く必要もなく、火もつかわない。所要時間も10分たらず。料理する気力も食欲も落ちがちな夏にあって、「これさえあれば」と思える心強い一品だ。

展開例としては、麺の上にのせて麺つゆ少なめに仕上げる。出汁をとってさましておいて、上から注いだ「かくやのせだし茶漬け」は上等の部類。熱いお湯やお茶を注いでお茶漬けにも(その場合は最後に醤油を数滴) 。

 ぬか床から出しそびれて漬かりすぎてしまった野菜は「かくや」用にそのまましばらくぬか床に入れておけば、心強い保存食的存在になる。うっかりが宝に転じる好例。

 昨日も、おとといも、すずしくかろやかに、かくやごはん。ぬか床を作っておいてほんとうによかった、とおもう夏のはじまり。

ぬか漬けは自由だ
ぬか漬け弁当