2020/12/13
なた豆茶 は、ふらりと立ち寄った直売でみつけたのだった。どうやら豆をさやごと切って、干しただけらしい。家に持ち帰って飲んでみると、ほの甘い、なんだかなつかしい味がする。「この味、どこかで知っていいる」。でもなんの味なのか、いっこうに思い出せない。
しばらく考え続けること数日、ある日「あ!」とひらめいた。ウエハースの味だ。白くてうすい、たべるときにちょっと粉がこぼれてしまう、あの、指でつまみあげると空気みたいに軽い、はかない食感のお菓子。それに対して、包装はきっちりと、きまじめな長方形。その中身と包装のコントラストも好ましい。
なた豆とウェハースの味が、どうして重なるのかよくわからないが、とにかくその瞬間からなた豆はわたしにとって、特別な存在となったのだった。
そしてある日のこと、同じ直売で種をみつけた。ちいさな袋に大きな豆が6粒ほど入っていて「なた豆のたね」と書いてある。ちいさく息を呑んでから、緊張気味に手に取って、100円ほどを支払って持ち帰った。
種をまいたのは、たしか5月。あっけないほどすぐに発芽して、つるはぐんぐんと伸びてゆく。白い花が咲き、夏がはじまるころには、さやが付きはじめた。おどろくべきことに、さやはぐんぐんと成長して20㎝ほどになった。さわってみるととても硬い。なるほど「なた」のような大きさと硬さだ。
なた豆茶にするには、さやごとうすく切って干すのだが、とにかく硬く、はさみや包丁ではとても歯が立たない。となりの集落の方に「押し切り」というわらを切るための道具を貸してもらい、やっと薄く切ることができた。
1週間ほどかけてきっちり乾燥させて、瓶につめればでき上がり。お茶にするときは、鉄なべで香ばしくなるまで炒る。熱湯を注いで飲んでみると、うす甘い、ノスタルジックな味がした。そう、あのウェハースの味。
豆はぜんぶ収穫してしまわずに、良いものをいくらか残しておいて種にする。さやが茶色くなって、すっかり乾燥するまで気長に畑に放置する。かたく閉じたさやをひらくと、大きくて真っ白な豆が行儀よく並んでいる。ほんとうは豆だけをとっておけばよいのだが、わたしはそのままさやの状態で保存するのが気に入っている。あの、さやを開く瞬間の、なんとも言えない胸の高鳴る感じをまた味わいたくて。
今年は 種まきにおくれをとって、さらには 支柱を立てるタイミングを逃して(こんなことはしょっちゅうだ)、つるが土の上でからまりにからまって、「もうこれではどうしようもない」と思ったが、なんとか途中で無理やり支柱を立てて、もちなおした。そんなわけで、去年ほどには量が取れなかったのは致し方がない。
なた豆を育てはじめてから、3年。
同じことを繰り返しているようで、毎年いろいろな気づきがある。種をまいて、収穫して、種とりをする。そんなふうに一年がめぐってゆくただ中にいると思うと、いつだってにじむようなよろこびに包まれるのだった。