6月の野草茶

 かつて住んでいた海辺の町の、ちいさなグローサリーから野草茶の注文をいただいた。できたては香りがよいので、毎回、できるだけ発送の直前に調合して袋詰めするようにしている。

 野草茶あわせは、場を整えるところからはじまる。シンクに置いてある洗い物はすべて終え、コンロまわりを磨き、作業台を拭き清める。鉄のフライパンは重曹や灰汁で念入りに洗い、火にかけてしっかりと乾かす。その日によって、ホワイトセージを焚いたり、ろうそくをつけたりと、気持ちが落ち着くような工夫をする。

 野草茶のベースは、高知でよく飲まれているきし豆茶とはぶ茶。はぶ茶は去年作った残りがあとわずかになってきた。去年の夏、汗をかきながら作業したことを思い出す。1メートル以上に伸びたものを、刈り取って、たたいて、切って、干す。今年は去年のこぼれ種からあちらこちらに芽が出たので、せっせと移植して「はぶ茶畑」を作っている。鮮やかな山吹に似た花が咲いた頃に刈り取れば、花付きのはぶ茶ができる。去年はタイミングを逃してしまったので、今年は必ず、と思っている。

 この時期は、春に摘んだ花を使えるのがうれしい。カモミールにローズゼラニウム、それから母子草(ははこぐさ)。カモミールはこれまで花だけ摘み取っていたが、「メキシコでは茎も葉もついたまま乾燥させてお茶にしていて、味も良かった」と聞いて、 あわてて 最後のカモミールを刈り取って干した。仕上がりは上々。花だけ摘むのは大変な手間なので(今年は少ししかできなかった)、来年からはこの方法にしようと思う。ローズゼラニウムはピンクの色も、香りも、伸びる力もすべてが強い。このハーブに出会ったばかりのときは、それほど心ひかれなかったが、数年を経た今、そのまっすぐな強さを持つ花を好ましく思うようになった。

 ハーブは、レモングラスとヴェルヴェーヌ。レモングラスは湿度と気温が高い時にぴったりの清涼感。料理に使えばたちまち東南アジアの雰囲気が生まれる。ヴェルヴェーヌは、4年前に手に入れた一株を大切に育てていて、葉がずいぶんと茂るようになった。ヴェルヴェーヌはフランス語で、英語ではレモンバーベナ。うっとりするような、香水といってもよいくらいの香りに、毎回新鮮な驚きを覚える。最初の芽吹きの後にすこし摘み取ったので、脇芽がつぎつぎと出てきた。今年は瓶にたくさん保存できそう。

 ここ数年、とくべつに親密に感じている素材が月桃と黒文字。どちらもお茶にすると淡いピンクベージュになり、すこしスパイシーな、清々しい香りがする。いずれも見た目は地味だが、うちに秘めたものがある植物のような気がしている。

 黒文字は乾燥させた枝を使う。細い部分ははさみで細かに切り、太めの枝は小刀かなにかで削るのだろうが、あいにく道具を持っていない。さてどうしたものか、小刀はいったいどこで買えるのだろう、と思い続けていたが、ふと思いついて出刃包丁をつかったらまずまずの削り心地だった。だけど、もしかしたら、枝の固さは包丁の刃によくないのかもしれない。

干しあがった花付きの十薬

 十薬(どくだみ)は今年はじめて全草(根から花、茎や葉まで全体のこと)を干すことが叶った。ちょうど干しあがったところだったので、うれしくていつもより多めに入れる。きし豆茶とはぶ茶は煙がでるほどに炒って、ハーブや花は繊細なので火を入れずに仕上げに加える。

 細々と作り続けている野草茶は、毎回手元にある素材が違うので、そのときそのときの調合になる。梅雨のただなか、すこしでも気分よくすごしてもらえますように、と思いながら袋にお茶をつめたのだった。